「植物が好む環境選び」庭の環境と世界の環境
「フローラルガーデンの庭仕事」H29年2月16日の内容です。次回3月16日は「暮らしの中の庭づくり」庭のデザインと植栽計画の予定でしたが外部講師による講座となるため、チーフガーデナーによる「フローラルガーデンの庭仕事」は今回で終了いたします。
■ フローラルガーデンの庭仕事講座/毎月第3金曜日 10:00〜11:30
イギリスのガーデン本を読み解きながら庭目線の園芸基礎知識を学ぶ勉強会。
園芸と庭づくりの基礎を学ぶとともにフローラルガーデンの植物について説明します。
〈講師〉株式会社フィーカ 近藤かおり(フローラルガーデンよさみチーフガーデナー)
〈定員〉70名 〈参加費〉 無料
*お申込みはフローラルガーデン事務局0566-29-4330またはinfo@garden-yosami.jpまで
「植物が好む環境選び」庭の環境と世界の環境
Working with nature 〜 自然と一緒に仕事をする 〜
自然の法則から離れたところからスタートする庭もありますが、それは大変難しく、お金がかかります。戦わないで、問題を見つけたら自然の声に耳を傾けて下さい。全体を見渡して自然の法則に従うことが「たったひとつの庭」を作り出すことができる、一番簡単で唯一の方法です。
by Alan Titchmarsh
1、自然環境で植物群落を作る要因
植物は森やその他の自然環境の中に存在しますが、決して単独ではなくコミュニティ(群落)を作って生育しています。葉を落とし、植物自体が変化して作り出す環境は、生態系を作り、他の生き物と一緒にコミュニティを形成していきます。目に見えない微生物が細かい部分のコンディションを整え、大きな植物を育てるのに役立っています。
植物は生育環境に合わせて進化し、環境適応した体になっています。そこがどのような環境か知ること、それに適応している植物はどのような植物か知ることで環境にあった植物を選ぶことができます。
① 温度
19世紀初頭、自然学者アレクサンダー フンボルドにより赤道から北極、南極の植物の分布を示した植生帯の等温線地図が作られました。それは単純化しすぎていて、等温線上にある植物の関係性を示すのは難しいものでしたが、植物分布が温度によりつながりがあることを世界に初めて伝えました。
40℃を超える地域では酵素が健全に働かないなどの理由でその地域への分布が難しい植物が増えます。また、零下になる地域では冷たい温度から身を守るため秋に葉を落としたり、地際で春まで小さくなって冬越ししたりする植物が分布します。凍ることで枯死する植物があり、凍ることに適応した細胞に変化して生き延びる植物もあります。このように植物分布を知ることで温度と植物の生育は深く関わりがあることが知られるようになりました。
植物の発芽適温はその植物が自然界でどのような温度で生育するのかを知る良い指標となります。
② 雨量、湿度、土の湿り気
水は植物の命に関わる極めて重要なものです。光合成を行う物質となり、葉緑素生成にも使用し、光エネルギーで糖類生成の働きもします。また、植物体内へ栄養素を運び、健康な植物を育てることにも重量な役割を果たします。
世界中で雨量は異なり、その雨量に合わせた進化をした植物にとって大気中や土中の水分量は生育を左右する最も大切な物質だと言えるでしょう。
③ 日当たり、日陰
光合成の仕組みは光をエネルギーに変えます。すべての緑の植物には光が必要ですが、それぞれ要求する光の量が異なります。
一年草は早く成長するため栄養やエネルギーを多く必要とします。発芽には光を嫌うものもありますが、生育には多くの光が必要です。林床地帯に育つものやゆっくり成長するものは多くの光を必要としません。開けた草原地帯でも曇り空が続く地域に生息する植物は多くの光を必要としません。
庭ではそれぞれの植物の成長にあった光の量を得られる環境で育てることが大切です。
④ 土質
土の材料の多くは岩で、時間の経過や凍ることにより岩が細くなり、砂状になっていったものです。植物は土の支えにより自立できます。土は水や有機物などの栄養素、空気など植物の成長に必要なものを保ちます。
植物の成長に必要なものが一番少ない土質がツンドラ地帯で凍ったピートと粘土の土壌で灰色をしています。温暖な落葉樹の森は茶色い大地です。火山灰が堆積した黒土は農業に必要な栄養素がたっぷり入った土です。熱帯雨林地帯には雨が降り続く雨季と乾季があり、土は鉄分と酸化アルミニウムを含む栄養素が少ない赤土からなる土壌です。このように土の質の違いは土の色にも現れます。
ほとんどの植物はその植物が栄養素を吸収するのに丁度良いph値を持っています。ph6.5を中心に数字が小さい方が酸性、大きい方がアルカリ性で、土中で働く微生物の動きに影響を与えます。
2、庭の環境と植物
① 温度と植物の生育
温暖な刈谷では冬はー3℃以下になる日が少なく、半耐寒性多年草を戸外で越冬させることができます。夏は30℃を超えるような生育が止まる高温の期間が長く、高温の時期に極端な多湿と乾燥の期間もあり、注意が必要です。
② 湿度と夏の一年草
6、7、9月は高温に加えて雨量が多い為、湿度も高くなります。土壌湿度が高く、高温多湿での生育を好む植物は生育しやすい環境になりますが、8月は降雨量が減るので高温多湿を好む植物にとっては水分が不足しがちになるので気を付けましょう。
また、高温乾燥を好む植物は土壌水分が多い状態を嫌うので、水はけの良い土壌や鉢植えなど乾燥しやすい環境を作る必要があります。
◎高温多湿を好む
〈主な原産地域〉熱帯地域(赤道に近く雨量が多い年中温暖な地域)
〈向いている植栽場所〉半日陰など湿気がたまりやすい場所
〈花壇への水やり〉できるだけこまめに
〈植物の種類〉アンゲロニア、アゲラタム、コリウス
◎乾燥を好む
〈主な原産地域〉乾燥地帯(寒帯ではない、年間を通して降水量が少ない地域)
〈向いている植栽場所〉水はけの良い土壌や日当たりの良い場所
〈花壇への水やり〉多少手を抜いてもOK
〈植物の種類〉ペチュニア、千日紅、黄花コスモス
③ 夏の日照と多年草
同じ敷地内でも場所によって生育環境は異なります。夏越しが難しい多年草でもその植物に合った環境を選ぶことで生育させることは可能です。
◎南向き/西向き
〈土の状態〉乾燥しやすい
〈光の状態〉1日中日差しがある
〈夏の温度〉高温になる
〈向いている植物の性質〉高温と乾燥に耐えられる植物
〈植物の種類〉常緑の多年草・・・タイム、ローズマリー
半耐寒性多年草・・・ゼラニウム、ペラルゴニウム
◎東向き/明るい日陰
〈土の状態〉乾燥しにくい
〈光の状態〉ある程度の光量はある
〈夏の温度〉高温になりにくい
〈向いている植物の性質〉日なた好きだが高温多湿を嫌う植物
〈植物の種類〉耐寒性多年草・・・エキナセア、オダマキ、ペンステモン
◎暗い日陰
〈土の状態〉乾燥しにくい
〈光の状態〉光量は少ない
〈夏の温度〉高温になりにくい
〈向いている植物の性質〉湿気を好む植物
〈植物の種類〉耐寒性多年草・・・ヘレボラス、アジュガ、ホスタ
④ 刈谷の環境と土壌
刈谷では年間の降雨量の約半分は高温になる6月〜9月に降っています。最近は8月の1カ月、全く雨が降らない年もあり、雨季と乾季を持つ熱帯雨林地帯の気候に近いのではないでしょうか。土壌は赤い粘土質の場所が多く、土の色も熱帯雨林地帯によく似ています。植物を植える際には有機質をしっかりすき込み、土壌改良してから植えることをお勧めします。
〈参考文献〉The Garden Plant Selector / David Joyce
The Complete How to be a Gardener / Alan Titchmarsh